沖縄語首里方言の「係り結び」構文における移動

菅原 真理子(東京大大学院)

当発表は,首里方言の「係り結び」構文の意味解釈,及び「係り」助詞でマークされた句と「結び」との間の統語関係を明らかにすることを主な目的としている.当研究をするにあたり,沖縄国際大学の喜名朝昭先生に御協力頂いた.

「係り結び」とは,文末の「結び」形態素と「係り」助詞でマークされた文中の語句とが呼応する文である.「係り」助詞でマークされた句は「焦点」として解釈される.すなわち,「係り」助詞でマークされた句を‘some x’で置き換えた文の指し示す命題は「既に話題となっている情報」として解釈され,「係り」助詞でマークされた句自体は,その既に話題化されている命題内の‘some x’の値を断定する機能,又は問う機能を持っている.この「係り」でマークされた語句は,Wh 節,複合名詞句,及び付加詞などの,いわゆる移動に関する島内には生起できない.しかしながら,ʔum(思う)のような動詞の選択する埋め込み文内には生起可能である.この「係り」でマークされた句の生起が可能・不可能になる環境と英語の Wh 疑問文における Wh 移動が可能・不可能になる環境が一致する.この一致は,「係り」でマークされた句も英語の Wh 句と同じように移動の対象となっている,すなわち,「係り」句はその素性を「結び」形態素(=TP を選択する主要部)と素性照合するため,その「結び」が主要部となっている句の指定部に移動している,と考えれば説明できる.しかし「係り」句は表層的には移動していない.そこで「係り」句には目に見えない形で移動操作がかけられていると提案する.その移動が LF で行なわれているのか,それとも null oparator の移動によるものなのか,又は PF の制約によって移動した句が発音されないのか,についてはこれから議論の余地がある.