本発表では,次の (1) にあげるダケ(ひいては副助詞)の一般的性質から,ダケが文中のどのような要素に付いて,どのように解釈されるかを考察した.
(1) ダケ(副助詞)は,それがかかる述語的要素を要求する.
ここで「かかる」ということは次の c 統御の条件に従うものとする.
(2) α が β にかかるためには,α は β によって c 統御されなければならない.
具体的には,動詞 V に対する補部や付加部は,(時制辞 T に繰り上げられた)V に c 統御されるため,ダケはそれらの補部や付加部に付くことができる.なぜならこのときダケも V に c 統御されて,その V に「かかる」ことができるからである.次のような例である.
(3) a. 太郎は[友達の家にいると](だけ)言った
b. 太郎は(酒の量は今までどおりで)[タバコの量を減らすように](だけ)した
c. 太郎は[タバコの量を減らすために](だけ)飴をなめた
(3a, b) は補部にダケが付いた例,(3c) は VP 内の付加部にダケが付いた例である.これに対し,VP 外の付加部は V に c 統御されず,したがってダケがその付加部に付いても,ダケは V に「かかる」ことができず非文となる.次のような例である.
(4) a. 太郎は[友達の家にいると](*だけ)行儀よくする.
b. 太郎は[タバコの量が減るように](*だけ)飴をなめた
c. 太郎は[タバコの量が減るために](*だけ)飴をなめた
要するに,形態上類似した句であっても,それぞれが VP の中にあるかどうかが,ダケの生起可能性に関わってくることになる.
(1) にある,ダケがかかる述語的要素とは動詞や形容詞のような述語に限らない.範疇上は動詞や形容詞でなくても,意味上述語的な性格を持っていればダケがかかる相手となりうる.具体的には,「結婚」などの行為名詞や,“使って/利用して”のような昇格を表す後置詞のデなどである(後者については Sano 1985 を参照).