単語記憶過程における言語差: 日本語・中国語・英語を対象に

石川 圭一(大阪薫英女子短期大)
野辺 修一(流通科学大)

単語記憶過程の普遍性と言語特異性を探るため,日本語話者15人,中国語話者11人,英語話者12人を被験者として,有意味語(各母国語と日本語話者の外国語としての英語)と無意味語(CV-CV型とCVC-CVC型)の単語リストを記憶再生させ,以下の結果を得た.

1) 音韻ループを抑制する場合としない場合の比較: 音韻ループの抑制は,全ての言語の全ての条件で有意に再生成績を下げ,音韻ループの働きを補償するような視覚イメージ的な記憶の働きを示唆する結果は得られなかった.

2) 有意味語・無意味語,及び,視覚提示・聴覚提示の差違: 有意味語において,英語話者と中国語話者は,聴覚優位を示した.日本語話者は,母国語においては提示法による差はなく,外国語としての英語においては視覚優位を示した.無意味語においては,どの言語も両提示法でほぼ同じか,または視覚優位を示し,聴覚優位を示したものはなかった.

3) 無意味語の記憶における音節構造の影響: 全ての言語話者にとって,音節数が同じであれば音節構造が単純な語の方が記憶しやすいが,記憶すべき語の音節構造が話者の言語の典型的音節構造に近い場合は,そうでない言語話者に比べて記憶は良くなり,また,話者の言語の音節構造との違いの程度が大きいほど視覚優位を示す傾向がある.

以上から,「記憶する語彙の精通度 (familiarity) が高くなるにつれて,視覚的記憶優位から聴覚的記憶優位へと移行する」という一般化の可能性が示唆される.ただし,日本語話者の母国語の記憶についてはこのようではなく,日本語の特殊性についての更なる検討が必要である(例えば,漢字・仮名の処理の違い,視覚中心の国語(外国語)教育等が関係している可能性がある).さらに,本研究から,日本語の漢字単語と中国語の単語の知覚・記憶様式がかなり異なることが示唆された.これは中国語の文字は日本語の漢字に比べて表音性が高いことが関係していると思われる.