本発表の目的は,日本語獲得初期における aspect や animacy の重要性に着目し,それらを中心に据えた格付与システムの構築を試みることである.その前提となる基本的な事実が 3 つある.第 1 に,言語獲得初期においてはまだ tense が存在せず,代りに inherent lexical aspect が重要な役割を果たしているという事実が挙げられる.第 2 に,動詞の自他の区別における animacy の果たす役割が挙げられる.animate theme では自動詞が,inanimate の場合は他動詞が現れる.第 3 は,非対格仮説が幼児言語においても当てはまるということである.これらの事実を踏まえ,まず Dowty (1979) や McClure (1994) に従い,動詞をその inherent aspect に基づき,Achievement, Activity, Accomplishmentに分類し,Achievement を意味する BECOME の役割を担う機能範疇として ASPi (inner Aspect), Activity を表わす DO には ASPo (outer Aspect) を設定する (Accomplishment は両者を含む).更に非能格動詞と他動詞の主語は animate NP に限られるので animacy 素性による agreement を仮定し,ASPoP の上に機能範疇 AGR を設定する.また非対格動詞は Achievement 動詞,非能格助詞は Activity 動詞であり,主語は共に動詞の内項として導入され,その違いは ASP の性質と素性照合のための animate NP の [Spec, AGRP] への Move によって捉えられる.これにより文脈による非対格,非能格の揺れや後者のもつ再帰性,非能格主語の「が」の早期獲得が説明できる.実際の格付与は ASPi と ASPo 及び AGR が行う.そして統率による格付与によって ASPi が Nom, ASPo が Acc を付与し,animate NP は [Spec, AGRP] で Spec-Head Agreement によって,AGR から Nom を付与されると仮定する.Accomlplishment 動詞の Acc 付与に関しては ASPo による ASPi の格吸収がおこり,NP が [Spec, ASPiP] へ Move し,そこで ASPo により格付与される.これにより,「が」の overextension を格吸収の阻止から生じる ASPi による Nom 付与として捉えることができる.