否定性を含む肯定文の諸相
―空間認知に根ざす否定性に向けて

有光 奈美(京都大大学院)

一般的に,肯定文と否定文とは二つの対立であると思われているが,本発表では,肯定と否定の対比が常に同じ二極的なものではなく,動的で相対的な段階性を持ち得るものであることを論じる.完全な否定語が明白に現われ,明示的否定性を持つ否定文に対し,肯定文にも様々な非明示的否定性が潜んでいる.本発表では,極性に敏感な副詞が示唆する未到達や意外性などに通ずる否定性や,誇張表現などを発展させ,空間認知に基づく否定性を論じる. この空間認知に根ざす経験にもグレディエンス的側面があることを指摘し,中心から周辺への段階性のある空間認知と関連づけ,否定性をとらえる.これまでの研究では,未だに論理学的視点から扱われることの多かった否定性という分野において,本発表では非明示的否定性に注目し,否定性の一部が前景と背景という対比だけではなく,人間の空間認知にまで根差していることを指摘する.