オリヤ語の動詞 kar- 「する」と he- 「なる」の意味

山部 順治(日本学術振興会/東京大大学院)

本発表は,オリヤ語の動詞 kar-「する」 he- 「なる」の諸用法を報告し,これらの用法は,2動詞が (1) のような意味を持っていると想定すれば,包括的に記述できると論ずる.

(1) kar- 「する」: 主語が,描写される事態の主要な原因を担う.

he- 「なる」: 主語が,描写される事態の主要な影響を担う.

発表では,提示する事実を,これら2動詞が取る表現が(動詞の分詞・形容詞ではなく)名詞である場合に限る.

he- 「なる」は,まず,辞書で与えられている‘happen, become’という訳語が示すように,主語が表す事態の生起または物体の生成 (happen) や主語の状態の変化 (become) を表す.このほかに,he- は動作をあらわす普通名詞と結合して動作述語を作ることができる; これらの動作述語の表す動作は,再帰・相互・受身のいずれかに分類できる.

kar- 「なる」は,辞書の‘do, make’という訳語に対応する用法として,事態の生起・物体の生成や状態の変化の使役を表す用法をもつ.また,kar- を含む文の表す事態は,意志的な動作に限られず,非情物の動きやものごとの間の関係であることもある.

2動詞 he-, kar- は,動詞語幹 -aa- 動詞語幹 -i の形をした重複名詞形と結合して動作述語を作ることができる.これらの場合での2動詞の表現上の意味は,動作をあらわす普通名詞と結合するときのそれと同じであると見なすことができる.

提示した諸用法の広がり方から,2動詞は (1) のような基本的な意味をもっていると考える.(1) に含まれる“原因”と“影響”とが反意語の対をなすのと並行的に,2動詞は反意語の対をなしている.