日本語とインドネシア語の「場」に関する助詞,前置詞の選択には,その「場」を事象に「緊密一体化した接点」として内在的に捉えているのか(ニ,pada),あるいは「周辺的な場所」として付加的に捉えているのか(デ,di),という観点による棲み分けの原理が関与しているものと考えられる.
日本語における「個の位置」(ニ)と「事態の位置」(デ)の差異による選択,インドネシア語における「抽象的場」 (pada) と「具体的場」 (di) の差異による選択,という両言語に見られるプロトタイプ的な用法を包括し,且つ,それらによっては説明のつかなかった事例に対しても統一的解釈を与えるものとして,上述した棲み分けの原理の内在を考えることができる.
表面的には別の原理が働いているかに見える日-イの与格(ニ,pada)の深層には,「事象と緊密一体化した接点」という共通の基本概念が内在しており,この共通概念こそが,両言語の自発表現における与格の意味役割を担っているものではないかと考えられる.