本発表は,インドネシア語における主語の省略という現象に,統語論的な要因だけでなく談話・機能論的な要因も関わっていることを,等位接続詞を用いた重文を例に,明らかにするものである.
インドネシア語で,ある一人の人物の一連の動作を叙述する,等位接続詞を用いた重文においては,後ろの節の主語の省略に二つのパターンがあり,それは,等位接続詞の前の節の主語を先行詞とする省略と,前の節の目的語を先行詞とする省略である.そのうち,後者については,以下のような例文があげられる.
Anakitu i | membungkus | nasi ii | dan | Ø ii | dileyakkannya i | di | atas | meja | makan. | ||
S(Agt) | me-V(transitive) | O(Pat) | Conj | S(Pat) | di-V (Agt) | Prep | N | N | V | ||
子供 その | 包む | ご飯 | そして | 省略(ご飯) | 置く 彼 | に | 上 | 机 | 食べる | ||
その子はご飯を包み,食卓の上に置いた. |
この重文の等位接続詞の後ろの節では,前の節の目的語と同一指示である Pat が主語になり,それが省略されている.動詞句に見られる接頭辞 di- は,Pat を主語にとるマーカーである.また,前の節の主語と同一指示である Agt は,動詞の後ろに代名詞の接語形で現われている.
これは,重文の後ろの節である一人の人物の連続した動作を表わす動詞句をより重要な情報を持つものとして指示するという談話的な意図によって,動詞の形式が決定され,それに伴い主語となった要素が,旧情報であり文脈上容易に復元されうるという談話的な理由によって,省略されているということである.
このように,インドネシア語の主語の省略には,談話的な要因が関わることがある.