「丁寧体」と「常体」の指標的機能について

吉田 愛(城西国際大)

本研究では「丁寧体」と「常体」について,その指標的機能に注目した.指標的機能とは,Silverstein (1976) の指摘した,コンテクスト内のさまざまな事柄を指標する機能のことである.「感謝」表現の相手に応じた使い分けの調査結果を,「依頼」表現の相手に応じた使い分けについての先行研究の調査結果と照らし合わせた結果,両方の調査において,「丁寧体」の表現をソトの関係にある人物に使用し,「常体」の表現をウチの関係にある人物に対して使用しているという共通点が得られた.

そこで,「丁寧体」と「常体」とがそれぞれどのような指標的機能を果たしているかという観点から見てみると,「丁寧体」は「話し手の相手の人物がソトであるという認知」を,「常体」は「話し手の相手の人物がウチであるという認知」を指標しているという結論を得た.

また,従来「丁寧体」の表現が持つと考えられてきた,「聞き手に対する敬意」や「話し手の品格保持,謹みの表現」という意味も,「丁寧体」「常体」の果たす指標的機能という見方をすれば,それぞれ「話し手の聞き手に対する敬意の有無」,「話し手の属性」を指標していると考えることができる.

Silverstein によると,指標的機能には言語が指標する事柄の性質によって,'presupposing' と 'creative' という二種類のものがあるとされている.「丁寧体」と「常体」の持つ指標的機能のうち,「話し手の相手の人物のウチ・ソトの認知」を指標する場合は 'presupposing',「話し手の属性」を指標する場合はやや 'presupposing',「話し手の聞き手に対する敬意の有無」を指標する場合は 'creative' の性質を持つと思われる.