認知意味論において,語の多義構造を表わす「意味ネットワーク」は,プロトタイプやメタファー,メトニミーなどの概念を用いてかなりきめの細かい記述が可能になってきた.これに対し,複数の語彙間の意味関係を表わす「語彙ネットワーク」は,まだあまり注目されていない.本発表は,「小さい」「せまい」「きつい」「いっぱいだ」「ぎゅうぎゅうだ」など,〈容器のスキーマ〉をめぐる形容詞の語彙ネットワークを提案した.
それによって,形容詞が,認知的・意味的に「均質な」カテゴリーでなく,「小さい」のよりな「分析的」概念から「ぎゅうぎゅうだ」のようなオノマトペに代表される「感覚・イメージ的」概念へ連なる連続的なカテゴリーであることを示した.また,形容詞の意味として,従来のような「空間認知」に基づくイメージスキーマ以外に,〈押合い〉〈複数性〉など「力学認知」「数量認知」を反映する多層的な表示が必要であることがわかった.