日本語分類辞の選定における形状の関与
―「1本の毛糸」と「1玉の毛糸」をめぐって―

飯田 朝子(東京大大学院)

日本語では数詞を伴って事物を数える場合には分類辞 (classifier)を用いる.分類辞はある種の意味的分類を行っており,その選定はある程度,事物の共通的性質の裏づけによって決定される.共通的性質の中で今回着目したのは「数えられる事物の形状」である.本発表では,形状と分類辞の付与の相関関係,つまり分類辞を用いて数えられる名詞句の形状がどのように分類辞の選定に関与しているのか,有生性 (animacy),事物の概念化された典型的形状及び言語習慣性にも着目しながら,日本語を母語とする話者50名(平均25.2歳)を対象に行った調査の結果を参考に考察を行った.

今回調査した「縄のようなヘビ」と「ヘビのような縄」では,ほとんど外見形状は同じにも関わらず,前者は「-ヒキ」で分類され,後者は「-ホン」で分類されるという結果が出た.また「本物そっくりのヘビのオモチャ」は「-ヒキ」でも「-ホン」でも受容するが「-ホン」では数えられないという結果も,日本語の分類辞の選定には数えられる事物の形状が大きく関与しているものの,事物の有生性の方が形状よりも優先的に関わり,有生性の痕跡が残っている事物に対して形状の介入を妨げることを裏づけている.

また,文のみを与えた場合,被験者は事物の典型的形状のイメージを思い浮かべて,それに適当な分類辞を付与するが,文と共に同一物の異形の絵を視覚的に示された場合は,その形状に応じて分類辞を置換・修正することも明らかになった.

更に,各代名詞の持つ分類辞の言語習慣性 (linguistic convention) は単一的ではなく,分類辞「-ホン」でのみ数えられるジュース缶と同じ形状のアスパラの缶詰が「-ホン」でも「-コ」でも受容するという調査結果から,言語習慣性の度合いが強まると,視覚的形状よりも優先的に分類辞の選定に関与する場合もあることが導かれた.