選択体系機能文法からみた日本語の主題
―「有標」主題と「無標」主題―

塚田 浩恭(関西外国語大大学院)

日本語の主題については,様々な側面から議論されてきた.助詞「は」が主題を表すマーカーとして,よく日本語の主題構造が分析されてきた.確かに Halliday も「は」の前にくる要素が主題になると述べているが,別のところで「主題とは,どんな意味が節の最初の位置にくるかを示唆するために用いられる単なるラベルに過ぎない」(Halliday 1994) と規定している.つまり,節の初めの要素が主題に相当するのである.

本発表では,Halliday に代表される選択体系機能文法の観点から,日本語の主題の分析を試みた.選択体系機能言語学では,主題は節の最初の要素と定義されているので,必ずしも「~は」だけが主題を表すとは限らなくなる.時には「~が」が主題を示すということになるのである.

日本語の主題を考察するにあたって,「~は」と「~が」の「~」の役割について,あまり触れられることがなかったと思われる.しかし,より厳密な主題の分析を可能にするには,「~」の要素を対人関係的およびテクスト形成的に分類する必要があることを示した.さらに,日英語の基本語順が異なるので,それぞれ違った有/無標主題の枠組みを設定しなければならないことを述べた.従来,日本語の主題を検討するときはいつも,主語を節頭に置いたが,これでは日本語の基本具現順序をしっかりと考慮に入れたことにはならない.したがって,「~は」と「~が」の間に現れうる時間を表す付加詞を加え,日本語の主題に関して考察を行なった.ただ単に何か主題であるのかを示すだけではなく,「有標」と「無標」という概念を用いるならば,節における主題の有標性がテクスト分析において,何か重要な機能をみる糸口になると考えられる.