日本語の関係節構造

本田 謙介(獨協大大学院)
市川 一祐(獨協大大学院)
井上 和子(獨協大大学院)
柚木 一彦(獨協大大学院)
砂見 聡(獨協大大学院)

本研究は,久野 (1973) の「日本語において関係代名詞化されるのは関係節の主題である」という主張を基本的に支持するものであり,関係節とトピック文に見られる相関関係を統語的側面から分析し,理論的説明を試みるものである.すなわち,我々の分析においてこの相関関係は,「両構文が派生の途中のある段階まで共通の構造 (Pre-Topic Sentenees) を持つ」と主張することによって統語的に説明される.

経験的証拠から関係節とトピック文が IP からなることを示した上で,トピック文の構造を [TopP NPi-wa [IP . . (proi). .]] とする.尚,NPi は TopP の Spec に基底生成され,IP 内には proi が生じるものと考える.更にこの TopP がDo の補部として生じた場合に,関係節に派生することとなる.すなわち,IP 全体が DP の Spec へと移動するのである ([DP [IP . . (proi) . .] Do [TopP NPi tj]]).

関係節の派生を上のように考えることによって,久野の主張を統語的に反映できるのみならず,日本語の関係節について観察されてきたいくつかの重要な現象をも説明できる.例えば,関係節中にトピックや終助詞が生じないことや,「島の制約」に従わないことなどである.さらに,久野 (1973) への反側と考えられてきた「で格」を伴う名詞句の場合など (Muraki 1974),関係節とトピック文の容認性に差があるような場合についても考察し,それらの例文には文法以外の要因が関与している可能性が大きく,我々の統語分析に対する反例とはならないことを示した.

また,我々の日本語関係節の分析は,Kayne (1994) の主要部末尾型言語の関係節の分析の妥当性を結果的に示唆することにもなると思われる.