日米の「グループの中で意見を述べる」談話の対照分析
―フレーム理論の観点から―

佐藤 安希子(東京大教務補佐員)

本研究は,「グループの中で自分の意見を主張する」という談話行動をめぐって日本人とアメリカ人の間におこるミスコミュニケーションの原因のひとつを,それぞれの文化で共有されている談話の型に対して持っている「期待の枠組み」の相違としてとらえ,実際の談話を比較対照し,Tannen (1993), Watanabe (1993) により提唱されたフレームの概念を用いて考察することにより,解明しようとするものである.

データは,それぞれ4人の参与者からなる日本人グループ3組,アメリカ人グループ2組に同じトピックを与え,それぞれの母話でだいたい15分くらいで話し合ってもらうよう指示し,それを録音,文字化したものを使用する.その中から,与えられたトピックに対し自分の意見を述べていると思われる部分を対照として,(1) ターン内レベル,(2) ディスコースレベルの2つのレベルで分析する.ターン内レベルでは,それぞれの話し手のターン内の表現的特徴を比較,ディスコースレベルでは,談話の全体的なパターンを比較する.

ターン内レベルでは,日本人はアメリカ人に比べ,「聞き手依存度の高い」表現を用いた意見の述べ方をする傾向がみられた.ディスコースレベルでは,日本人の談話はグループの中の同意と協調を原則とするタイプの談話になっているのに対し,アメリカ人の談話は一人一人の意見の相違を前提としたタイプの談話になっているという違いがみられた.本研究の結果は,日米両文化で同じタイプの談話に対してそれぞれ共有されているフレームの違いを反映していると考察される.