本研究は,母語に無声・有声の区別がない話者が第二言語として無声・有声の弁別を行う際,ピッチパタンを利用しているという仮説を立て,母語に無声・有声の区別がある集団とない集団を対象に,日本語の語頭に来る無声音と有声音の合成音声による知覚実験で検証したものである.
実験では,語頭の子音が無声と有声のみ対立している日本語のミニマルペアの中から78対を選び,各々のビッチパタンを抽出した.この中から11対を選び,計算機に記録した.各々の音を分析再合成した後(「分析再合成音」),無声・有声のピッチパタンを入れ替えた「加工音」を作成し,韓国語母語話者と日本語母語話者を対象に知覚実験を行った.実験全体から,次のような結果が得られた.
1. 韓国人について,「分析再合成音」の場合,「アクセント実現型」ごとに誤聴率を見ると,HL型単語では,無声音の聞き誤りがほとんどないのに対し,有声音の聞き誤りは33.3%と大きい.これに対してLH型では,遂に有声音の聞き誤りは少ないのに,無声音の聞き誤りは44.5%と極めて大きい.HL型単語の場合,ほかの型よりピッチの始まりが無声音・有声音ともに高めの傾向があるため,語頭音が無声音として認識されやすくなると考えられる.LH型単語の場合,ピッチの始まりが比較的に低いところに位置しているため,語頭音が有声音として認識されやすいのだと考えられる.「加工音」の場合,無声音の場合はピッチを下げると聞き誤りが大きくなり,有声音の場合はピッチを上げると聞き誤りが大きくなる.HL型単語の有声音は無声音として認識される率がさらに高くなり,LH型単語の無声音は有声音として聞き間違う率が一層高くなる.
2. 日本人の場合,「分析再合成音」,「加工音」ともに誤聴率は低い.しかし,「加工音」の場合,摩擦音に関して散発的な誤りが見られたことは興味深い.
これらの結果は,先に述べた「無声・有声の弁別にピッチパタンが影響を与えている」という仮説を強く裏付けるものといえる.