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ブヌン語(南部方言)における「分類接頭辞」

野島 本泰(東京大大学院)

ブヌン語(台湾,オーストロネシア語族)で「2回食べる」「2回泣く」「2回鳴く」「2回笑う」というのは,それぞれ 'ik-pusan maun [CL-twice eat], pais-pusan tagis [CL-twice cry], tu-pusan tu'ia [CL-twice sing], makin-pusan mahainan [CL-twice laugh], のように表わされる.「食べる」「泣く」「鳴く」「笑う」を表わす動詞が異なるのはいいとして,問題は「2回」を表わす部分も違う形をとる,というところである.どれも,pusan「2回~する」に,接頭辞 (CL) が1つついた形をしている.この接頭辞が,ここで問題にする「分類接頭辞」で,それぞれ異なる事象に対応している.

なぜ「分類」接頭辞と呼ぶことができるのか.たとえば,「書く」「(金槌で)釘を打つ」「植える」という3つの動作は,free form の動詞では,それぞれ ma-patas, ma-tuhtuh, ma-suaz のように別の語幹をもつ異なる動詞で表わされる.ところが,この3つの動作について「2回~する」というと,pat-pusan-an ma-patas「2回書く」,pat-pusan-un ma-tuhtuh「2回金槌で叩く」,'is-pat-pusan ma-suaz「2回植える」,のように,同じ pat- という接頭辞が現れる.このことは,この3つの動作が一段抽象的なところで1つの事象としてまとめられていることを意味する.そして,この pat- のおこなっている分類は,おそらくは,〈物を別の平面へ移動させ,そこに埋め込む〉とでもまとめることのできるような,事象間の類似に基づいているのだろうと推測できる.

名詞クラス・性 (gender),類別詞 (classifier) と呼ばれる現象は,多くの言語で報告されているが,これらはすべて名詞(事物)の分類である.本発表では,一般に類別詞と呼ばれている現象に並行的なものと見ることもできる動詞の分類が,ブヌン語に動詞接辞という形で存在することを述べ,その分類基準の一部を紹介した.

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