本発表では,fuzzy member(曖昧な成員)を持たないカテゴリーの構成について,日本語話者60名を対象に行ったアンケート調査の結果を参考に考察を行った.カテゴリーを規定する際に典型例は必ず必要かについても言及し,従来のカテゴリー構成理論の妥当性を検証した.
典型例と抽象的イメージの相関関係に言及している Rosch, Taylor, Langacker らの先行研究を概観し,カテゴリー構造の問題を典型論とスキーマ論の対立としてのみ論じるのは不十分ではないのか,そして曖昧な成員を持つカテゴリーと持たないカテゴリーには,カテゴリー構築における差異があるのではないかという問題点を提示した.
曖昧な成員を持たないカテゴリーは,その構成成員のタイプによって,「血液型」「プロ野球球団」のように成員数が少数に限られているもの,「曜日」「(カレンダーの)月」のように循環性のある限られた成員から或るもの,「偶数」「奇数」のように成員が多数/無限であるものの3種に類別できる.アンケート調査の結果も,この3種の分類に一致して,それぞれの特徴が表れた.成員数が少ないカテゴリーの典型例として,被験者はまず一般社会通念を意識したものを挙げ,次いで主観の介入のある答えをした.循環性のあるカテゴリーでは,「日曜,月曜」「1月,12月」等のように循環の始点と終点を典型として選出した.そして,成員が無限にあるカテゴリーでは「2, 4」「1, 3」がそれぞれ典型例として圧倒的得票数を得た.
本発表の結論として,典型例は,必ずしもカテゴリーを構成する際の中核的な役割を担っているのではなく,曖昧な成員を持たないカテゴリーでは典型的事物を中心にカテゴリーを構成していないことが確かめられる.これらのカテゴリーの構成は,成員が少ない場合全ての成員を列挙することによって行われ,成員が多い/無限の場合はカテゴリーの定義によって構築されていると考えられる.