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日本語における「うそをつく」という行為に関する考察

西村 史子(広島大大学院)

実際の場面でどのような発話が「うそをつい」ていると認定されるのかを明らかにすることは,円滑なコミュニケーションをはかるために重要と思われる.主な先行研究として,意味論のレベルでプロトタイプの概念を用い 'lie' の語義に迫った Coleman and Kay (1981) や,発話状況の分類により 'lie' とこれと関連する発話との違いを明らかにしようと試みた Sweetser (1987) がある.本発表では,当該発話の命題内容の真偽のみならず,話し手の発話の動機が「うそをつく」という行為の認定に影響を及ぼすのではないかと考え,語用論の立場から考察を試みたものである.

今回は Coleman and Kay (1981) に倣い,アソケート調査を実施した.発話状況を読み,その中のある発話が「うそをつい」ているかどうか7段階で回答するというものである.設定条件は,当該発話の命題内容の真偽と,誰の利を(話し手か他者か)目的としたかの2点てある.その結果,次の2つが明らかとなった.

(1) 偽の命題指示の方が,聞き手に偽の命題を推論させることを意図した発話よりも,より「うそをつい」ていると認定される.

(2) 話し手の利を目的とした発話の方が,他者の利を目的とした発話よりも,より「うそをつい」ていると認定される.

更に次の点も,観察された.

(3) 命題内容の条件,誰の利を目的としたのかという条件が同じでも,回答値に差が生じる場合があった.この差は,当該発話の動機の深刻さ(或いはその場での許容度)が影響したものではないかと考えられる.

以上より,日本語の場合,当該発話状況における話し手の動機が「うそをつい」ているかどうかの認定基準になっていることが窺える.どの条件が最優先されるかは今後の課題としたい.

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