ロズィ語の性格

湯川 恭敏(東京大)

19世紀の前半に南のほうから来て現在のザンビアの西部地方を支配下においた(マ)コロロと呼ばれる人々の大部分はソト語(現在のレソトおよび隣接する南アフリカの地域に話される)の話し手であり,ソト語と系統的に近いツアナ語の話し手も含まれていた.19世紀の後半に彼らの支配は打倒されたが,彼らの言語はその地に生き残った.この言語はロズィ語と呼ばれるようになり,現在のザンビアの国語の一つになっている.

ロズィ語,ソト語(およびツアナ語),および,この地方にそれ以前から話されている言語(ルヤナ諸語)のうちのクワングワ語・ムエニ語のデータを比較してみると,

(1) ロズィ語の重要な単語の大部分(85%以上)がソト・ツアナ語に由来する.

(2) 音韻面ではかなり大きな変化をこうむっているが,明確な音韻対応(アクセントの対応も含む)が認められる.たとえば,ソト語の i と狭い e はロズィ話では i となり,u と狭い o は u となり,また,ソト語の側面摩擦音や側面破擦音は有気・無気の t とともにロズィ語で t となっている.

(3) 文法的にも,ソト語の諸特徴を受け継いでいるが,名詞のクラス,主格接辞,対格接辞,動詞活用形といった部分の一部に,ルヤナ諸語の特徴が認められる.たとえば,ソト語にはない ka や tu を接頭辞とするクラスがロズィ語にはあり,ソト語では,単数1人称・複数1人称・2人称主格接辞が kẹ/rẹ/lẹ(ẹ は狭い e)であるのにロズィ語では ni/lu/mu になっている.

等々が指摘できる.従って,ロズィ語というのは,音韻面全般および文法の根幹部分の一部等々に話し手の大部分の母語(ルヤナ語語)の影響がはいりこんだ,ソト語の一方言である,といえそうである.