通時態の混入しない共時態の記述を目指す構造主義流 IA 方式は異形態の乱用を招くことになり,異形態を乱用しない生成文法流 IP 方式は通時態の混入を招くことになるというこれまでの(形態)音韻論の抜差ならぬ状況―ジレンマ―は,高橋(1988, 1995等)の TM 方式(ひな形(照合)方式)に則れば,両方式の利点を活かしつつ難点を持越さない形で解消可能である.
通時態と共時態とを峻別した上で,TM 方式では,通時態は「変更規則」を用いて IP 方式により規定されるのに対し,共時態は最少指定基底形のひな形への照合という形で「変更規則」を一切用いずに,また「異形態」を乱用せずに規定される.
高橋 (1995) では TM 方式の妥当性を日本語をデータに論じたが,本発表では英語をデータに本方式の妥当性をさらに裏づけた.具体的には,共時態において変更規則を多用する Yip (1987) に対し,変更規則を一切援用しない代案を提示した.