本発表では,これまで「モダリティ」とは切り離されて,特別問題にされてこなかった,日本語助動詞の「てくれる」・「てしまう」・「やがる」という表現に焦点を当て,「命題に対する話者の評価表現」として,「命題に対する話者の心的態度表現」である「モダリティ」の1つとして扱うことを提案するのが目標であった.
「モダリティ」を助動詞だけでなく,文副詞にまで拡大解釈した場合,これらの助動詞には,対応する「評価的文副詞」―「有り難いことに」・「残念なことに」・「腹立たしいことに」―をもっていると考えられる.これは,「認識的モダリティ」が対応する「認識的文副詞」をもつのと対応している.
このようなことからも,「てしまう」・「てくれる」・「やがる」という表現は,「モダリティ」と同じカテゴリーに分類されることが期待される.
ただし,モダリティが命題の真偽についての話者の判断を示す表現であり,命題が確定命題(事実・現実)でないのに対して,これらの表現における命題は確定命題である,というところに両者の違いがある.