本研究では,談話における「やっぱり」の機能を,言語面と使用面の2側面から検討する.[X やっぱり Y] (Maynard 1993) の談話構造の中で,言語面の機能として,X=前提を示唆する指示語的機能と,談話のインターアクションを促す「きまりことば」という間投詞的機能の2つに大別する.まず,指示語的機能では,基本的に川口 (1993) に準じ,X=前提が(1)社会通念,(2)話者の主観,(3)客観的テクスト情報の場合によって3分類する.そして,指示語的機能として,(1)「planner,filler」,(2)「ためらい,言いよどみ」の2つを区別する.これら5つの言語的機能を用いた単独型5つと複合型5つの全部で10の行使ストラテジータイプを予想する.
一方,使用面の機能として,「やっぱり」は待遇表現の一種であり,「わきまえ方式」と「働きかけ方式」(井出 1987)の両面をもつと考える.「働きかけ」方式で最も多用されるのは,(1)「社会通念」+(2)「話者の主観」の複合型と予想され,「働きかけ」が適度な時は,話し手と聞き手双方に親愛の感情を共鳴させ,「働きかけ」が過度であると聞き手に威圧感を与えてしまうことがある.過度か否かのカテゴリー認知は相対的であり,その指標は両者間の社会通念の共有度が影響するであると考えられる.
実際のインタビュー調査では,複合型=(1)「社会通念」+(2)「話者の主観」の使用が最も顕著であった.(例:普通だったら一般的には3ヵ月じゃわかんないんじゃないってやっぱり(私は)言うね.)これは,「共存・同一化志向」や「相対的関係への配慮」から生まれた,日本人的な「二重構造のレトリック」に基づく言語行動を示していると考えられる.