情報のなわ張り理論からみた日本語の対話構造:
肯定応答文形式からの考察

伊藤 丈志(獨協大大学院研究生)

Kamio (1994) で提唱されている情報のなわ張り理論は,単一の発話(文)形式のみがその直接の説明対象であるが,本発表では,理論は(2)の「対話の原則」を仮定し,(3)のように Case の指定に若干の(且つ妥当と考えられる)修正を施せば,(1)の X の発話に対して,Y1 のような肯定応答文形式で答えるのが最も自然な対話対であり,Y2-Y6 のような肯定応答文形式で答えるのは,どこか不自然な印象が生じる対話対になるということを適切に予測することができる,言語学的により有意義な理論に発展することを主張した.

(1) <X と Y がよく晴れた空を見上げながら>
X: いい天気だねえ
Y1: そうだねえ
Y2: ??そうだ
Y3: ??そうだろう
Y4: ??そうだろうね
Y5: ??そうみたい
Y6: ??そうか

(2) 対話の原則:対話参加者間の情報のなわ張りに関する想定が同じであり,かつそれが尊重されていれば,肯定応答文を含んだ対話は自然である.

(3) 必要とされる情報のなわ張り理論の修正:

  1. Case D に n > Speaker > Hearer を認める.
  2. Case A は "1=Speaker > Hearer=0" ではなく "1=Speaker > Hearer" とする.