相談談話における説得行動

村上 恵(広島大大学院)

NHKラジオ番組『子どもと教育電話相談』でのアドバイザーの談話目的は,助言を与えるだけでなく,その助言を最終的に相読者に受け入れさせるように説得するという特性を持つ.本研究では,アドバイザーがこのような談話目的のためにとる談話行動を「説得行動」と呼び,(1)説得行動の表現形式,(2)説得行動の連鎖の型,(3)やり取りの過程を明らかにすることを試みた.特に,説得が「成功した相談」と「不成功の相談」に焦点を当てて談話分析と考察を行った結果,以下の3点が明らかになった.

1. アドバイザーの行為指示の表現形式では,成功した相談と不成功の相談に大きな違いは見られなかったものの,不成功の相談では,ためらい表現や緩和表現が多用されていた.

2. アドバイザーの発話における構成要素の連鎖を見ると,成功した相談では話題の転換が少なくて構成要素の連鎖が長いのに対し,不成功の相談では話題の転換が多くて構成要素の連鎖が短かった.特に,行為指示の前後の連鎖型を見ると,成功した相談では相談者の現在の望ましくない状況と行為指示を組み合わせた連鎖型が半数を越えていたのに対し,不成功の相談では,この連鎖型は見られなかった.すなわち,成功した相談では,相談者の現在の立場に基づいて行為指示の説得が行われていたことが窺える.

3. 説得行動には,状況判断説得の流れと行為指示説得の流れという2つの流れを見ることができる.そして不成功の相談では,相談者の発言内容とアドバイザーの説得行動の流れが対応していないやり取りが長く続いていた.他方,成功した相談・不成功の相談ともに,アドバイザーが状況判断説得の流れから行為指示説得の流れへと移行しても,相談者が状況判断にこだわり続ける傾向が窺えた.このことから,相談の談話における説得行動では,状況判断説得の流れが,行為指示説得の流れの基盤になっていることが考えられる.