照合理論を用いて,英語の動詞的動名詞 Poss-ing と Acc-ing にみられる統語的現象を説明する.動名詞を形成する形態素 -ing は,TP の主要部に位置し,N 特徴である格の素性を持つと仮定する.Poss-ing は DP に投射されるとすると,要素の抜き出し不可及び等位構造主語と主節動詞との複数一致が予測できる.Poss-ing における属格の実現は,AGR-S の照合領域で,主語と -ing の格素性 [+Gen] が照合されることから説明される.Kitahara (1992) の作用域原理によって,主語と目的語の連鎖がオーバーラップしているので,作用域の曖昧性を正しく予測する.また,動名詞全体が主節の AGR-O に上昇し格照合するため,動名詞主語がその動詞より作用域が広くなることが説明できる.
Acc-ing の場合,-ing が [+Acc] を持つとし,照合領域 AGR-S において指定部に上昇した主語と対格の照合をする.照合を終えた -ing は,動詞と付加をし,排出する.Acc-ing 構文では,TP が投射する構造を仮定する.顕示的統語レベルでは,-ing が移動し,動名詞を形成する.LF では,動名詞の主語が主節の AGR-O の指定部に上がり,主節の動詞と格照合を終える.顕示的に AGR-O の指定部に上がる ECM 構文の目的語と異なり,Acc-ing 構文の目的語が A 移動できないことは,排出前はそれが埋め込まれた位置にあるためである.作用域解釈に関して,繰り上げ構文のように LF 繰り下げが起こるとすると,目的語が主節の動詞または埋め込まれた目的語より狭い作用域を持つことが説明される.