文法化における語彙的意味の希薄化と文脈の選択制限―「決して」と「重ねて」を例に―

高橋光子

文法化は言語変化のプロセスを示す通時的な概念である。このプロセスの中で、具体的な内容語から抽象的な機能語を派生させるイノベーションとその言語共同体への普及を表わす共時的変化は第一段階であり、その後の数世紀にわたる通時的変化は第二段階である。GabelentzやMeilletのような文法化の初期の研究者は第二段階で示される諸特性、すなわち、意味の希薄化・語用論的役割の低下・表現性の喪失などを指摘している(Hopper & Traugott 1993)。18世紀前半の「決して」は豊かな語彙的意味を持っていたが、文法化の進行によってそれらは徐々に削り落とされ希薄化していった。17~19世紀の「重ねて」は「未来」を表わすさまざまな文脈で用いられていたが、現代では使用文脈が極めて制限されている。本発表は、文法化の第二段階の特性である語彙的意味の希薄化と文脈の選択制限についてデータに基づき分析する。