対をなす有声子音と無声子音の構音動態について

吉岡博英

子音の有声、無声の対立は、共時的あるいは通時的に見てもほとんどの言語で認められ、対をなす一組の子音について、従来の音声学的分類によれば、声帯振動の有無を除いて調音様式および調音点が同一であるとされてきた。本研究では、声帯振動の成立以外の構音動態、中でも重要な役割を果たす口蓋に対する舌の相対的な動きに注目し、有声、無声の対立に関わる舌構音の役割を検討した。その結果、舌と口蓋との接触パタンは、無声破裂音では、接触面積、持続時間とも、有声破裂音に比べ、明らかに広く、かつ長いことが示された。一方、摩擦音については、囁声で発話したデータも考慮すれば、有声子音/z/での舌と口蓋の接触面積は無声子音/s/に比べやや広く、舌尖で作る凹みの幅が狭く前後に長いことが知られた。本研究の結果により、対をなす有声子音と無声子音において、舌の構音動態にも明らかな差異があることが証明された。