指示詞ア・コ・ソの文脈照応用法についての一考察
豊川 典子(九州大大学院)
本発表では,日本語指示詞の文脈照応用法について,次の二つの論点を取り上げた.【イ】ソの特徴である「概念的知識の対象を指示する」という規定には,ソのみが持つ「連動読み」の機能が含まれるが,これはソの特徴の周辺に位置するのであって,「対象指示」こそが中心的な機能である,【ロ】コにはアと同様,直示の特質を備えた用例があるが,ソと同様に直示の特質を備えていない用例も多数存在する.
結論として,指示詞の体系について以下のように提案した.アは,直接知を指示し,間接知・概念知を示さない.コは,アと同様に直接知を指示するが,それに加えてソと同様に間接知・概念知,並びに存在を含意する変項 (variable, E-type pronoun) を表す.ソは,アやコとは異なって直接知を指示しないが,間接知・概念知を示す.また加えて,「連動読み」も出すが,その場合のソは対象指示表現ではない.