本発表においては,極小主義に対する3つの提案を行った.[1] 計算システムにおける移動部門はたった1つである. [2] 元位置の wh 句は派生の全ての段階において移動しない.[3] 移動部門の内部構造は顕在的統語移動のみから構成される可能性がある,
これらの提案は英語,中国語,イラク・アラビア語の元位置の wh 句 (wh-in-situ) の統語的性質を多様な角度から精査することによって導かれた.特にその理論的側面においては,穏在的移動の発見法に関わる議論に力点が置かれている.また,議論の全てに渡り,科学理論の基準である反証可能性をいかにして達成するべきかという点が強調されている.これは理論モデルの評価においては,方法論的仮定とそれに基づく実際の分析の間にある適正なバランスがきわめて重要であり,極小主義をその先端とする生成文法の理論構成においても同様であるとする基本的研究姿勢から要請されている.