本発表では,1) 日本語には文法的な数の素性が存在しないこと 2) 「-たち」のついた名詞句は述語になれないという特性を持っていること の二点を主張した.
英語の措定文 X be Y では [X Taro and Hanako] are [Y students]. のように数の一致が見られるのに対し,(1a) のように日本語の措定文 X wa Y da ではその必要がなく,むしろ Y が「学生たち」のように複数である場合は (1b) のように容認不可能になることを指摘した.
(1) a. [X 太郎と花子] は [Y 学生] だ.
b. *[X 太郎と花子] は [Y 学生たち] だ.
この事実に対して本発表ではまず,「叙述関係にある X と Y は文法的素性 [±plural] が一致しなければならない」という数の一致の条件を提案し,日本語にはこの [±plural] 素性が無いために (1a) のような文が許されると説明した.そして,(1b) は,「-たち」付きの名詞句が述語になれないために非文になっているとし,「たち」付きの名詞句が固有名詞等の指示的名詞句と同様に,述語を要求する様々な環境に出現できないことからこれを裏付けた.