益岡 (1984) や森田 (1994) では,「平原は耕されてあった」のような「他動詞受動形+テアル」構文は不自然な表現であると見なされている.しかし,実際には,文芸作品からホームページのコンテンツに至るまで広範に用いられている.多くの実例を分析した結果,この構文は,「~テアル」の「アル」が【存在】の意義を反映していると解釈される場合,つまり,[[他動詞受動形+テ]在る]の意味構造を有していると解釈される場合に容認可能となることが判明した.この意味構造は,基本的には,以下の認知プロセスを経て,作り上げられると考えられる.第1段階:<非情>の存在を認識する.第2段階:その<非情>が被動作主(文法的には直接目的語に相当)/行為の対象者(文法的には間接目的語)であることを強く意識する.第3段階:その<非情>をトラジェクター(文法的には主語の相当)に見立て,その存在の発生原因や付帯的な状態を前景化(言語化)する.