一致をもたない言語の格体系
―日本語の場合―

林 龍次郎(聖心女子大)

本発表では,Neeleman and Weerman (1999) による,格は形態的に実現する場合にのみ認められ,英語などにおいて主語は格ではなく一致により認可されるという主張を見た上で,一致をもたない言語である日本語の格体系を考察した.一致による項の認可という手段をもたない日本語の場合,主語は目的語などと同じく CASE シェルをもつと考えなければならないが,主語がデフォルト値であるという Neeleman and Weerman の説とは矛盾しないことを見た.日本語の主語名詞句は CASE シェルをもってはいるが,基本的にはその内容はゼロであり,「は」「も」やスコープ標識,ゼロのトピック標識などの支えがないときにのみ,last resort で「が」が挿入される.一方対格の「を」は顕在的格標識と考えられる.その他の文法関係は格標識ではない純粋な後置詞により表される.また,名詞句の拡大投射の体系について日本語は英語などと異なるという帰結が得られた.