日本語の「ここ」「そこ」「あそこ」などの指示詞は,場所を指示する指示詞であり,会話の場において視覚的に認知できる場所や,談話の先行文脈に現れた場所を指示する機能をもつ.しかし,その指示対象は,必ずしも会話の場や先行文脈に明示的に現れているとは限らず,先行文脈内の特定の情報や先行文脈そのものに推論を適用して引き出される抽象的な〈場所〉である場合がある.このようなメタフォリカルな〈場所〉を導出する推論には,言語内レベルの推論とメタ言語レベルの推論があるが,これらの推論に共通するのは〈場所〉化という推論プロセスであり,ダイナミックな動きを,それが存在する〈場所〉に位置づけることでスタティックで,可視的な現象として認知しなおす機能をもつと思われる.また,このような用法を選択することは,表現の間接化となり,相手の消極的面子に配慮した言い方になると言える.