「まったり」に見る味覚語の比喩拡張

飯田 朝子(中央大)

現代日本語における味覚表現「まったり」について,その意味と比喩表現の分析を行った.「まったり」は味覚表現に留まらず,味覚以外の五感(聴覚・視覚・触覚・嗅覚)の表現,及び五感以外の表現(時間・速さ・様態)にも用いることができる.先行研究の食味要因及び食感覚表現の認知度のデータを参考に,本研究では20歳前後の女性話者115名を調査し,味覚を表現する「まったり」 (99.1%) と時間の過ごし方に関する「まったり」の比喩表現 (89.6%) が,ほぼ定着していることを確かめた.また,インターネットを用いた例文検索調査を行い,味覚を表す「まったり」は採取された文全体の 39.3% を占めているのに対し,比喩表現は約 50% に達しており,「まったり」の比喩拡張が進んでいることを示した.最後に「まったり」の比喩表現が,トロリとした旨味(コク)のある食物を口の中で時間をかけて楽しむ様子と関連があると主張した.