物事の隣接とカテゴリーの包摂
―静的関係を表す理由文―

渡邊 良子(東京大大学院)

理由の接続助詞「から」を含む複文は典型的には因果関係を表す.因果関係は何かが何かを引き起こすという動的な関係である.理由文の表す因果関係は出来事・認識・発話行為の三つのレベルで観察されると Sweetser (1990) 以来論じられている.

本研究ではまず「から」理由文という形式は動的関係に加え静的関係も表すことを示す.静的関係は前後件が同時的で,話者の「世界の在り方の理解」を反映する.更に本研究では静的理由文も三領域で解釈されることを示す.従来問題とされてきた「いい子だから静かにしなさい」という文も発話行為レベルの静的理由文であると説明される.

静的・動的の二関係は前後件を物事と解釈するかカテゴリーに代表されるような概念と解釈するかに起因すると本稿では論じる.従ってこの二関係が一形式で表されることは客観世界の成り立ちからは説明困難だが,解釈という主観的側面を考慮すると自然である.