本発表では,タンザニアのウサンバラ山西部でマア (Ma'a) の人々によって語されている内マア語と外マア語の使用状況について記述・分析を行った.
内マア語はこれまで言語接触の研究領域でしばしば議論の対象とされてきたが,マアにとってのもう一つの固有の言語である外マア語との使い分けの状況は明らかでなかった.本発表では,発表者による言語使用に関する聞き取り調査の結果とマアの一家族の日常会話の観察から,先行研究において第一言語として同等に習得され使用されていると報告されてきた2つの言語は,実際には同一の話者によって同等に習得されているのではなく,別の集団によって第一言語として習得されていること,また,秘密語として成立したともいわれている内マア語については,あらゆる内容の会話に用いられ,他民族の前では使われないことから,少なくとも現在は秘密語としての機能を果たしていないということを新たな見解として提示した.