ロシア語規範文法では副動詞と本動詞の主体は一致しなければならないとされている.しかし実際には副動詞と本動詞の主体の関係が徴妙に揺れている.従来この点についての積極的な研究が行われていない.そこで本発表はこの問題を新たな観点(副動詞主体の意味的広がり,副動詞主体と語順,副動詞構文における不可分性)から考察した.モダリティーに関わる場合や語順の違いによって副動詞主体が異なること,副動詞と本動詞の主体が一致していなくても不可分性が高いと許容されやすいこと,また小説などで実際に用いられている副動詞と本動詞の主体が異なる文では圧倒的に副動詞主体が1人称代名詞であることなどから,副動詞主体に関わる規範の揺れには表現者の主観性が強く影響していると言える.さらにタイポロジーの観点から「不可分性」のハイアラーキーがロシア語副動詞主体の揺れに反映されていることも明らかになった.