新ウイグル語話者は中世以降近代に至るまで文語としてアラビア文字表記によるチャガタイ語を使用してきたため,当時の新ウイグル語口語形式の性格を知ることはむずかしい.ただ,『漢回合璧』のような漢語―新ウイグル語対訳語彙集に記された漢語音写により当時の口語形式を再構することは可能である.本発表では『漢回合璧』の新ウイグル口語の再構法と再構された言語の特徴について論じる.
この語彙集の新ウイグル口語の特徴を明らかにするため,まず用いられた漢語音の特徴を推定する.編纂者孫は山陰出身であることから,当時の漢語山陰方言に近い漢語音が用いられていると考えられる.漢語音の推定には新ウイグル語の辞書形式も参考となる.さらに,この漢語推定音を用いて再構された新ウイグルロ語は現在の新疆ウイグル自治区の南部方言に近い特徴をもつことを主張する.