アラビア語の第1型動詞は語幹母音(過去形 CvCvC, 現在形 (yu-)CCvC の v)が語彙的に決定されるが,これが同じ動詞でも方言によって異なることがある.今回は,古典・エジプト方言・シリア方言・マルタ語の間でどんな動詞がいくつ異なっているかを具体的に明らかにした.
また Holes 1995 は,古典アラビア語の過去語幹は他動詞/再帰などで決まるとし,エジプト方言ではそれがさらに再整理され,現在語幹は動詞に喉音が含まれるかで決まるとしており,今回はその分析方法を用いた.
古典から各方言へどのようにシフトしているかという視点で観察した.エジプトとシリアの過去語幹はほぼ Holes の分析通りだった.しかしマルタ語は過去も現在も喉音を含んでいれば a, いなければ i である.今回は具体的な動詞で比較したので,不規則的なシフトだが方言間で一致しているものなど,方言史に関する興味深い例も見つけることができた.