省略表現と同一性条件

向井 絵美(九州大大学院)

Fukaya & Hoji 1999 は,日本語の格助詞を件う省略構文(CM 構文)が(Hankamer & Sag 1976 の意味での)surface anaphor であることを主張している.surface anaphor というものがLFにおいて先行表現の同一の VP(または IP)を含まなければならないと仮定するならば,CM 構文では常に構成素移動が不可欠となり,必ず局所性効果が観察されるはずである.しかし本発表では,この予測に反して,CM 構文にも局所性効果を見せるものと見せないものとがあり,したがって surface anaphor には2種類あるということを主張した.第1のタイプの surface anaphor は,従来の仮定どおり,LF で先行表現の VP と同一であることが条件となるが,第2のタイプの surface anaphor は PF で削除される終端記号列が先行表現と同一であることが条件となる.2種類の CM 構文には,この他にも統語的相違が観察されるが,本発表の分析によってその違いも説明できることを示した.