「はおろか/どころか」構文に関する一考察
―意味論的・語用論的尺度のメカニズムを探る―

澤田 治(早稲田大大学院)

本発表では,「はおろか/どころか」構文における尺度のメカニズムに関して,意味論的・語用論的な視点から考察した.第1節では「はおろか/どころか」構文には,意味論的尺度 (Horn 1972) と語用論的尺度 (Fauconnier 1975, Hirschberg 1985) が関与していることを明らかにした.第2節では,「はおろか」構文と「どころか」構文の尺度性の違いについて「概念境界」という概念に基づき分析し,「どころか」構文に関しては,「越境可能性の制約」が,「はおろか」構文に関しては「越境禁止の制約」が適用されることを提案した.第3節では,「はおろか/どころか」構文を談話レベルの視点から考察した.一般的には,「Aはおろか/どころかB」において,Aが旧情報でなければならない.しかし,本発表では,この制約を破る例があることを提示し,「常識」が旧情報的な役割を演じることを論じた.