数量詞「ひとつ」の意味と用法
―「NひとつVない」構文を中心に―

坂本 智香(神戸大大学院)

「NひとつVない」構文は,話者のモダリティを主張するという特徴を有している.例えば,「お茶ひとつ出してくれなかった」では,もてなし方のひどさに対する話者の憤慨が主張されている.このような解釈には,取り立て詞「モ」を用いた「お茶も出してくれなかった」の解釈と共通する部分がある.本発表では,数量詞「ひとつ」の取り立て詞的な側面の考察を通じて,「お茶ひとつ出してくれなかった」ような取り立て表現と,「お茶を一杯も出してくれなかった」のような数量表現をそれぞれ特徴づけている要因の考察を行った.結果,モノの±実体性,±個体性,モノトコトの結びつきの具体と抽象において,「ひとつ」は取り立てと数え上げの二つの機能を有していることを明らかにしたほか,「NひとつVない」構文と数量詞遊離構文を特徴づける要素を提示した.