本発表では,事物や事態,感覚の出現,発生を表す補助動詞構文「~てくる・いく」,「~아/어오다oda ・ 가다gada」,「~ X 来 lai・去 qu」の日朝中対照を通じ,次のようなことを明らかにした.
事態の変化と進展性という概念を中心に,さまざまな現象が繋がることが分かった. まず,日本語の場合,「生まれてくる」「富士山が見えてくる」「小さい文字が見えてくる」「寒くなってくる」は a 事態の変化 → b 事態の変化+進展性(-連続性)→ c 事態の変化+進展性(+連続性)→ d 状態の変化+進展性(+連続性)といった順番に沿って並んでいて,これは「ていく」がつきやすい順番である.そして中国語や朝鮮語に訳しやすくなることとも並行する.それは出現,発生を表す場合,中国語と朝鮮語は,d 状態の変化+進展性(+連続性)の時しか,「~아/어오다oda ・ 가다gada」,「~ X 来 lai・去 qu」が用いられないからである.そして,事態の変化のみを表す用法と,「霧が消えてきた」のように物理的な離反を表すにも関わらず「てくる」構文を使う用法は中国語にも,朝鮮語にもない用法である.これは日本語が出現,発生という事態を話者の個人空間に取り入れ,自己と関連付けようとする捉え方をしている傾向があると考えられる.中国語と朝鮮語にはこのような傾向が見られない.