本発表では,ネワール語の授受動詞 biye/kāye の拡張用法を明らかにし,統一的に説明することを試みた.Biye の助動詞用法では恩恵的行為の授与,使役,予期しなかった事態の発生等が観察されるが,前項動詞の性質と接続形の違いによって,主語(人)と事態との影響関係が連続的に展開することを示した.恩恵的行為は,主語の直接動作を表すが,与格の意味役割が事態の受け手から代理動作の受け手に変化していくことを見た.使役用法では,biye の前項動詞が2種類の活用形に分かれることから,使役形の PC 形で用いられる場合の形態的・意味的制約を設定し,direct causatives → sociative causatives → indirect causatives の連続展開上,sociative causatives に当たることを示した.NPC 形接続は指示的使役を表し,PC 形とともに主語の間接動作を表す.予期せぬ事態の発生は,主語がすでに意図をもつ実体ではないことから,話者が事態を直接経験することになる.