ギリシア諸の長い ē を持つ s 語幹中性名詞について,長い ē の由来について考察した.また,同一の語根から形成されたと考えられる長い ē を持つ s 語幹中性名詞と短い ē を持つ s 語幹中性名詞がとが並存していることについて,説明を試みた.
長い ē の由来については,祖語の段階で acrostatic type の母音交替を行っていた s 語幹中性名詞が存在し,その強語幹に由来すると考えることで説明できることを示した.
長い ē をもつ s 語幹中性名詞と,短い s 語幹中性名詞が並存していることについては,他にもそのような例が多く印欧語には見られることを示し,分派言語によって強語幹と弱語幹のうちのどちらの語幹を元にして曲用体系が作り直されたかという要因や意味の分化という要因によってそのような並存の状況が作り出されたという考え方を提出した.