本発表では,同一の動詞による coargument context における名詞句照応表現の分布と解釈の可能性に関して,オランダ語,カンナダ語,日本語,英語を取り上げ,これらの言語間に見られる変異について考察した.事実観察から (α),(β),(υ) の3つの記述的一般化が得られることを示した: (α) φ素性のうち性,数,人称のいずれかの値が指定されていない照応表現の生起はφ素性のすべての値が指定されている照応表現の生起よりも優先する,(β) 述語の語彙的・形態的再帰表示は統語的再帰表示よりも優先する.(υ) 述語に再帰表示を付与する照応表現の生起は,付与しない照応表現の生起よりも優先する.さらに,これらの一般化が (A), (B) の2つの経済性の原理から導出される可能性を示した: (A) 語彙部門での操作は,統語部門での操作よりも経済的である,(B)統語部門で確立される関係は,それ以降の部門(意味部門または談話部門)で確立される関係よりも経済的である.