本発表では,日本語の複数授尾辞「-たち」を含む名詞句が述語になれないという一般化(川添 2001)の説明を試みた.「-たち」が決定詞(determiner=D)であると仮定した上で,当該の一般化が成り立つのは,「-たち」を含む名詞句が DP で,DP は述語になれない (Déchaine & Wiltschko 2001) からだと主張した.また,「-たち」が決定詞であるという仮定の帰結として,「-たち」が付加する名詞句で観察される ordinary plural とassociative plural との曖昧性を構造的に説明する可能性を論じた.さらに,英語との比較において,英語の複数語尾 -s が NP と DP との間の中間投射であり,述語としても項としても機能できるφP (Déchaine & Wiltschko 2001) の主要部 φ だと仮定すると,英語のはだか複数名詞 (bare plural) が述語,項のどちらにもなれること,また,英語の複数名詞には associative plural の意味がないこと,が説明されると主張した.