近年,若者が接客をする機会の多い場面で,「名詞+のほう」の表現をしばしば耳にする.本発表では「~のほう」が持つとされる“ぼかす”効果について検討し,なぜ若者が接客場面で広く使うようになったか,美化語使用との関係と併せて考察を行った.
その結果,「~のほう」はあらたまった場面で,名詞をあいまいに“ぼかす”のではなく,名詞を直示するため丁寧表現(自分のものを相手に向ける/相手のものに自分が触れる)であることが分かった.また,「~のほう」は,名詞の種類や習慣によって語彙的に決定される接頭型美化表現よりも,名詞を選ばす生産的に付与できる,利便性の高い接尾型美化表現として,若者を中心に浸透・定着が進んでいる傾向を指摘した.更に,美化語を補助しながら相手に対する敬意を間接的に表すことができる機能も持つことから,「~のほう」は敬語体系の一種であることを示した.