本研究は,母音無声化現象には持続時間の減少が見られるか,持続時間の減少が見られるとすればどこに補償されるか,という二つの疑問に焦点を当てた.まず,無声化環境が含まれる語と含まれない語のミニマルペアを検査語として,対象音節の持続時間を測定することによって,無声化した拍は無声化していない拍より持続時間が短いことが確認できた.次に,無声化した拍と後続する子音の持続時間は負の相関関係であることを明らかにすることによって,短縮された持続時間は後続子音に補償されることが立証できた.後続子音が長くなった分は,代償作用によるものであると考えられ,モーラ境界を越えての補償が大いに支持できる.このように,語の全体の長さを確保するために,減少された持続時間がモーラ境界を越えて補償されることは,日本語はモーラタイミング言語であることを新たな観点から支持することになる.