一般に命令文にその命令内容が遂行された結果を表す文が続くとき,仮定の意味がでてくるが,「~てみろ」文にはそのような用法に加えて,命令の意味を表さずに仮定の意味だけを表す用法があることが長野(1995)で指摘されている.命令と仮定の両方の意味を表す事例では全体の意味が部分の意味から予測可能であるが,命令の意味を表さず仮定の意味だけを表す事例では文の意味は語彙的知識と文法の一般原理からだけでは予測できず,一定の意味と形式の対からなる構文を設定する必要がある.本発表では仮定の意味を表す「~てみろ」文を5つのタイプに分類し,「~てみろ」構文の意味的・形式的特性を解明する.その際,「あそこで泳いでみろ.冷たいぞ.」のような文と結びつく主体的解釈と「かなづちのお前があそこで泳いでみろ.みんなびっくりするだろうよ.」のような文と結びつく客体的解釈の区別が重要であることを指摘する.